桜尽くし

今年の花はもう散り始め、我が家のベランダには、1階の庭の桜の花弁が風に吹き上げられて舞い込んできます。朝刊を持って出かけました。土曜日ですが穴場がある。バスを降りて東京都戦没者霊園に入りました。16万人の死を悼む山本健吉の碑文があるだけで、10数本の桜と楠や欅の大木が広場を囲んでいます。碑に向かって石のベンチがあり、殆ど人はいません。腰を下ろすと、繽紛たる落花。ほどほどの風があるので、広場一杯、花びらがきらきらと舞いながら降り注ぎます。

豪華で、しかし沈痛な、寂しくもある時間でした。さまざまの事おもひ出すさくらかなー芭蕉の句だったでしょうか。ほんとに、生涯あちこちの、さまざまな場面の桜を見てきたなあ、という感慨に囚われます。中でも殊に、残念な去り方をした人のことを思い出すのは何故でしょうか。私たちは無意識に、桜に鎮魂の務めを背負わせているのかも知れません。傍に置いたエコバッグにも、広げた新聞にも、落花が舞い込みました。

私と同様に読書に耽る老人、営業電話を掛ける男性、都内観光で歩いているらしいリュック姿の男女、花びらを追いかける子供・・・何組かの人たちが訪れては立ち去りました。2時間ほどして起ち上がったら、石柱の足元で縮かんでいた蒲公英が、すっかり形を整え、黄金の花をもたげていました。

帰宅してメールを開けると、水戸に住む教え子から、写メールが来ていました。千波湖の周囲には柳と桜が植えられており、東京より開花が遅いため、未だ楽しめるはず。

偕楽園から見える千波湖

年末に美味しい米を頂いたので20年以上使っていなかった電気釜を引っ張り出し、夕飯を炊くようになったのですが、独り用の1食分には余るためおにぎりを作ります。桜花の塩漬を芯に入れると、香り、塩味、ぽっと染まる薄紅ー格別なおにぎりができます。