理文融合型資料論

井上泰至編『資料論がひらく軍記・合戦図の世界―理文融合型資料論と史学・文学の交差―』(勉誠出版 「アジア遊学」262)を読みました。論文14本、Ⅰ理文融合型資料論の実践 Ⅱ史学と文学研究の交差―17世紀の軍記と関連資料への視座 Ⅲ兵学有職学―19世紀の軍記と関連資料の展開 という構成になっており、3つの大型科研の成果を取り上げ、華麗に配置した編者の剛腕ぶりが窺えます。

巻頭、石塚晴通さんの基調講演「コディコロジー(文理融合型綜合典籍学)の実践」は、高精細デジタル顕微鏡によって料紙を詳細に調べ、装釘・筆跡・伝来なども併せて総合的に見る方法を紹介、目から鱗の思いでした。絵画資料の分野でも色材の化学的分析など文理融合の方法が進んでいる報告が複数載っており、私としては長門切の年代判定などに応用はできないか、と思いました。理系の人たちからは、料紙を焼いて炭素判定するのでは紙の年代しか判らないが、使われた墨の年代判定を非破壊検査でやれるのではないか、とよく言われるからです。

山本洋さんの「計量テキスト分析を用いた戦国軍記の分類」は口頭発表を聴いたことがありますが、今後は文献調査も変貌してゆくのだろううな、と思いました。文学部はチョーク1本でまかなえる、というわけにはいかなくなるでしょう。

高木浩明さんの「古活字版『帝王図説』再考」は、慶長11年に出た<秀頼版>『帝王図説』について、従来無批判に信じられてきた通説を打ち破り、痛快です。序跋や奥書、識語は一種の「装い」でもあって、そのまま信じていいとは限りません。徳川家康による典籍の校訂、出版の事業については、もっと広く捕捉されていいのではないかーそれは私も最近考えていたことで、大いに鼓舞されました。