新出『平家物語』長門切

平藤幸さんの「新出『平家物語長門切について―紹介と考察―」(「国文鶴見」56)を読みました。長門切については本ブログでも度々言及しましたが、なお3葉の新出が見つかり、現時点で85葉となりました。本論文は①板橋区立美術館蔵古筆手鑑「凰台」所収3行 ②久保木秀夫蔵模写手鑑所収5行 ③鈴木崇浩蔵7行の3葉を紹介しています。

①は源平盛衰記巻16「満仲讒西宮殿」の1節、②は同じく巻37「馬因縁」の1節に近いと判定しており、妥当な結論でしょう。殊に①は、数行置いて池田和臣蔵「親王をは二」の切(長門切の中で唯一、炭素14Cによる年代判定がなされている)と接続する部分だそうで、料紙や書写様式についても注目されます。

③については、写真図版と見比べると翻字に4箇所ほど不審があります。2行目「俄」は「候」の異体字では。「主上かくて渡せ給ふ」「各々かくて候」が対句になっているのでしょう。4行目「なり」は係結なので「なれ」です。6行目「散」は「存」。同じく「いかに高きやつ」と読んでいるのは、「いかゝしてきやつ」または「いかにしてきやつ」だと思います。内容からして、主上と我々面々がいる前での戦場で、頼朝側について岸岡から乗馬のまま「名対面」しているのがけしからん、と言っているので、都落以後、高低差のある戦場でなければいけない。「名対面」という語は巻37の三日平氏記事に出てきますが、文章が一致してはいません。長門切の1割くらいは現存本文のどれにも一致しないものがあるので、これもそうかもしれません。

なお國學院大學図書館には、模写も含め長門切は2点所蔵されています。また拙稿「平家物語断簡「長門切」続考」(『國學院大學で中世文学を学ぶ 第2集』2009/3 私家版)の翻刻には誤りも多いため、引用には原資料を参照するなど御留意下さい。