軍記・語り物研究会432例会

午後から軍記・語り物研究会にオンラインで参加しました。発表は①目黒将史さん「平家物語絵画に描かれる厳島の風景―火焼前の灯籠をめぐって―」 ②久保勇さん「尾張藩と軍記物語―徳川義直(源敬公)を継承する諸動向をめぐってー」の2本。会場参加者の数は分かりませんが、オンライン参加者は十数名。何故かマイクを通した音声の大きさが一定せず、質疑応答が聞き取れないこともありました(G7の警戒ヘリが上空を旋回する爆音にも邪魔された)が、発表はまずまず聞き取れました。

目黒さんは勤務先で「宮島学」なる授業をしなければならないのだそうで、その一環として、厳島神社が物語の場面に描かれる時にランドマークとされるものに注目、神前から大鳥居までの間に位置する灯籠を取り上げました。水戸藩旧蔵の「源平盛衰記絵巻」や根津美術館蔵扇面絵を始めとして、灯籠を描いた絵画は幾つかありますが、成立が正安元(1299)年とされる「一遍聖絵」には描かれていません。灯籠がいつからあったかは不明で、現存の灯籠は寛文10(1670)年に奉納されたものです。灯籠の有無を手がかりに絵画資料の成立年代を決定するのは、難しそうです。

久保さんの発表はいつもながら大量の資料を調べ上げ、近世の軍記享受の志向を明らかにしようとしたものらしく、時間的には発表3回分くらいのボリュームでした。尾張徳川の初代徳川義直(1600~1650)は甲府清洲、名古屋藩主を務め、歴史鑑戒の学びとして軍記を読み、その遺業を伝えた家臣たちによって多くの記録が残されたという。近世の尾張で軍記物語が読まれ、蒐集され、写され、校訂や出版や輪読などが行われたこと、それらの営為が現在、我々の読む本文に関与しているかも知れないことが、ずっと気になっています。今後の研究が進むきっかけとして期待しています。