参考源平盛衰記

11月の古典籍大入札会には、真珠庵本『太平記』が出されるとの予告を見ました。『伝存太平記写本総覧』の著者長坂成行さんは、思文閣の新出写本にも、断捨離、断捨離と唱えて無関心を装っているそうですが、ほんとかしら。

そう言う私は、年金生活で資力もないし、没後、資料の落ち着き先の心配もあるし、と文字通り断捨離生活だったのですが、先日、届いた『琳琅満目』153号(琳琅閣書店)をのんびり開いて、口絵に「参考源平盛衰記 江戸期写 82冊」とあるのを発見。がつん、と来ました。どうしよう、と暫く立ちつくしました。

『参考源平盛衰記』は、水戸光圀が部下に命じて、『大日本史』編纂のために軍記物語は史料たり得るかを検証させた事業の一環として、『参考保元平治物語』『参考太平記』と共に編まれました。『平家物語』でなく分量の多い『源平盛衰記』をもとに記事の正否を確認すべく、『平家物語』諸本や同時代史料と比較し、年代的根拠のない説話は削除しました(史籍集覧に翻刻されています)。初稿本と再稿本の2種があります。若い頃、現存する伝本を確認して歩き、解題も書きました。その後、2点ほど新出写本がありましたが、彰考館で作られた稿本すべての行方が判っているわけではありません。

『満目』で見ると、きっちりとした書写態度で、再稿本らしい。しかし「常陽水戸府」の下に署名がありません。蔵書印もなく、問い合わせると市場で入手したという。82冊なのは分冊や合冊があるからで、外題には89冊止とあり、完本だそうです。伝来が判らないが善本、というのは最も骨が折れる研究対象です。一晩考えよう、と思っていたら、売れました。コレデイイノダ―細かな調査のできる人の許で、従来の謎が解けるのが一番いい。出しかけた旧いノート類をしまいました。