源平の人々に出会う旅 第57回「京都・怨霊の恐怖」

 『平家物語』には、しばしば怨霊への恐れが記されます。たとえば、巻三「赦文」では、中宮徳子の難産は、讃岐院(崇徳院)や悪左府藤原頼長早良親王井上内親王らの死霊や、鬼界ヶ島の流人達の生霊が原因と考えられたとしています。

【御霊神社(上御霊神社)】
 御霊神社は早良親王井上内親王らを祀っています。早良親王桓武天皇の弟ですが、無実の罪により非業の死を遂げます。その後に続いた天変地異は早良親王の祟りであるとされ、桓武天皇を恐れさせました。覚一本に「早良廃太子をば崇道天皇と号し、井上の内親王をば皇后の職位にふくす」とあるように、怨霊を宥めるために追号贈官贈位を行うこともありました。

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北野天満宮飛び梅
 菅原道真の怨霊も、とりわけ恐れられていました。謀反の罪をきせられ太宰府へ流された道真は(昌泰の変)、配流地で寂しく死去します。道真が都を発つ前に自邸の紅梅殿で詠んだ「東風吹かば にほひをこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな」の歌によって、一夜のうちに梅が太宰府まで飛んだという逸話は有名です。紅梅殿は安元の大火(1177年)で焼失したことが、『平家物語』に記されています。

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渡辺綱奉納石燈籠】
 北野天神の境内には、頼光四天王の一人である渡辺綱が奉納したと伝わる石燈籠があります。『平家物語』では、渡辺綱を祖とする渡辺党の武士が活躍しています。競(きおう)・省(はぶく)・授(さずく)など、漢字一文字の名前が特徴です。

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〈交通〉
御霊神社…地下鉄烏丸線鞍馬口駅、北野天神…京福電鉄白梅町駅
                        (伊藤悦子)