紅いコガネムシ

今年の東京は一気に寒さがやってきて、晴れた空にもはや木枯の気配があります。もともと、秋に西の地域から東京へ戻ってくると、ああ東京は陸奥に近いんだ、と実感させられますが、今年は殊にその感が強い。

昨夜から観葉植物を室内に入れておいたのは正解でした。定年のお祝いの花束に入っていた万年竹を挿木したのが育ち過ぎ、切り戻してまた私の背丈ほどになっています。コリウスは切り花にして大きな水差しにどさっと活けました。去年不作だった菊が2年越しに大きく伸びて、今年は蕾がたくさん付き、日に日に膨らんでいくのが楽しみです。咲いたら1鉢は、毎春桜を見に行くお寺の六地蔵へお供えに行こうと思っています。ムスカリの芽も出ました。

実生で育てた石榴に花が咲くようになって3年、今年は3つ実ができました。近所のお庭ではたわわに紅い実がなって見事なのですが、我が家の実はコガネムシの大きさしかありません。毎日落ちないように見守っています。

石榴は古くから人間と関わりがあったようで、ギリシャ神話では、大地の女神の娘が冥府の王に攫われ、母が取り戻すのですが、去り際に、地上までは遠いから力をつけて行けと王から勧められ、うっかり石榴を口にしたばっかりに1年の半分は冥府で暮らすはめになったと語られます。中国では吉祥のようですが、日本では人肉の味がすると言って庭に植えるのを嫌う風習もありました。婦人薬にいいというのも根拠がないらしい。最も印象的な石榴のイメージは、怨霊となった菅原道真が雷となって落ち、膳にあった石榴の種を口に含んで板戸へ吹きかけ、火災を起こしたという説話(『太平記』、『北野天神縁起』、謡曲雷電」)でしょう。道真の無念が凝った、妖しい美しさをも感じます。