フェリス百人一首

フェリス女学院大学文学部日本語日本文学科編『フェリス百人一首』を読みました。本書はフェリス女学院創立150周年記念事業として、日本語日本文学科の谷知子さん・島村輝さんが中心になって企画・編集したもの。和歌・短歌の魅力を現代に、そして未来へと伝えたい、そのために新しい時代の百人一首を作ってみようと、同大学の日本語日本文学科の教員と学生から好きな和歌・短歌を公募したそうです。それを選ぶ「和歌所」と、イラストを描く学生たちの「絵所」を設けて本書を作ったとのこと。

100首の冒頭は和歌の創始とされている須佐之男命の「八雲立つ」歌で、以下各時代ごとに、人々に愛誦されてきた和歌が並び、要領よく解説がつけられ、合間にコラムが挟まれていますが、81首目からは近・現代の短歌で、米国の詩人アーサー・ビナードやセーラー服の歌人鳥居の作品も含まれています。私には、この近現代の撰歌が新鮮でした。コラムに注目すると、和歌文学に限らず、文学史の基礎知識がぎっしり詰まっていて、本書をテキストに使って、日本文学概説の授業なども楽しくできるのではないかなと思いました。巻末に「和歌・短歌を学ぶための読書案内」が付載されています。

各歌の解説は簡明ですが、中には鋭い見解もあって、頼朝と慈円の応答についての谷さんの読み(123頁)に深く納得しました。なおコラム「秋の虫」については、植木朝子さんの『虫たちの日本中世史』に最新の見解があります。

私は本書を記念の非売品として頂いた(若い頃、長期間、非常勤講師として勤めました)のですが、花鳥社から『和歌・短歌のすすめ』という書名で発売されてもいます。最近、和歌文学関係では一般読者や次世代と古典研究とをつなぐ企画が続々出て、どれも好ましい水準を保っていることに、少々羨望と焦りを感じているところです。