光くん

我が家には週1回、40代の女性が訪ねてきます。仮にエノキさんとしておきましょう。さまざまな「今どき」の話題を持ってきてくれます。私が日本古典文学を仕事にしていることを知っているので、先日、「いいね!光源氏くん」(NHKーGTV)というドラマが面白いですよ、と教えてくれました。夜遅い時間なので、第7回(8回完結)だけ視ました。須磨流謫時代の光源氏がタイムスリップして、もてない、冴えない女子のところへ転がり込む、というストーリーのようです。

さすがNHK、衣装とメークが男優にぴったり合って、直衣姿に違和感がない。何かに感激すると和歌を詠じる、という設定もよく出来ています。京都の街を歩いても、画面に収まっていました。この回の分は、(閉館中の)宇治にある源氏物語ミュージアムを借り切って撮影したようでした。

後日、エノキさんと感想を話し合いました。エノキさんとその仲間たちの関心は、自立した同士の男女が一緒にやっていくには、という(古くてしかし永遠の)テーマらしく、「凪のおいとま」というドラマと比較して論じていました。私は冴えないヒロインが言い放った、「光くんが愛した女性は1人も幸せになっていない」という見解が、『源氏物語研究史上、いつから主流になったかを説明しました。

エノキさんは多分、高校時代に教室で読んだ体験が元になっていると思いますが、なかなかよく『源氏物語』の核心を掴んでいて、最後には2人で、紫式部は女性なのにどうしてああいう男目線の長編を書くことができたんだろう、ということで一致しました。

私の関心は、古典文学を一般化し、親しみやすくするという作業について、そして今更ながら『源氏物語』は、天皇制なくしてはあり得ない文学なのだ、ということでした。