写本の形態

佐々木孝浩さんの「平安時代物語作品の形態について―鎌倉・南北朝期の写本・古筆切を中心として-」(「斯道文庫論集」52)を読みました。佐々木さんはこのところ、本のかたちとその内容や格付との関係を追究しています。

平安時代の仮名散文作品について、まず綴葉装の写本(古筆切を含む)の大きさ(六半か四半か)に注目し、次に巻子本の例を検討しています。その結果、物語の格は歴史物語>歌物語>作り物語の順に高いとされていたらしいこと、それゆえ歴史物語が最も巻子装に近いこと、歴史物語の中でも『大鏡』と、『栄花物語』・『今鏡』とに大別でき、後者は『源氏物語』に近いこと、注釈書は巻子本で作られる傾向があったこと等の指摘は、私にとって大いに有益でした。

歌物語には四半が多いこと、作り物語は綴葉装の場合、基本的に六半で作られたが、校訂本文を清書する際は四半で作られる場合もあったこと、『狭衣物語』はついに校訂本文が作られなかったため四半形態が珍しいこと、漢籍の巻子本には墨罫界がよく見出されるが、『大鏡』には鎌倉初期にそういう2例があること等の指摘は、諸本論や長門切研究にも参考になり、有難いことです。

造本や外観から、当時のジャンル意識とその格付けを知り得る、というのは言われてみればなるほど、と思ってしまいますが、数多くの実例を見てきて初めて、断言できることでしょう。書誌学の怖さと楽しさを知り尽くした佐々木さんならでは、です。