伊藤伸江さんから送られてきた「心敬の句表現―「青し」の系譜からー」(「日文協日本文学」 2017/7)を読みました。伊藤さんは、心敬が文明2年(1470)に自作の連歌と和歌に自注を付けた『芝草句内岩橋』を、このところずっと、先輩の奥田勲さんと共に翻刻し注釈をつけています。その中の「ちらしかね柳にあをし秋のかぜ」と「水青し消えていくかの春の雪」、「夕立はすぎむら青き山べかな」の句について、「青し」という語に焦点を当てて考察した論文です。
国歌大観の電子版が出来て以来用例を博捜することが簡単になり、和歌研究は格段に便利になり、視野が広がったのではないでしょうか。殊に連歌では、本歌はもとより、それまでに蓄積されてきた言葉と景物のイメージが、作品の誕生そのものに関わるのだということを、本論文から学びました。
風、夕立、水―透明で動きのある自然の景物が、青という色をまとって変化していく姿をとらえたところに、伊藤さんは心敬の真骨頂を見出しています。そして「見えぬものに色を見ることで、和歌から連歌の一句へと、表現の複合により、短詩化を」可能にしたのだと述べています。
門外漢には読みやすいとは言えませんが、心敬に心酔してその魅力を語ってくれている論文です。巷には平家語りが流行していた1400年代、連歌の世界で人々は、こういうことに専念していたんだなあと、今さらながら思いました。