昭和20年代、未だTVや週刊誌が普及していない頃、ラジオや大人達の会話を通じて絶えず耳に入ってきた言葉に、「ほうけんしゅぎ」や、「めいしん」がありました。ふつうの会話でも「ほうけんてき!」と言われれば致命的な非難でしたし、「めいしんだよ」と言われれば、無知な人として一笑に付されたも同然でした。
ちなみに寅さん映画で主人公が「ふうけんてき」と発音するギャグがありますが、あれは嘘っぽい。何故なら当時は日常的に会話の中で使われた語だったので、耳から聞いていたはず、文字を通して覚えたはずはないからです。
「めいしん」は、今なら俗信とか慣習として扱われることにも、そういうレッテルを貼って撃退していくのが新時代、と思っている人が多くいました。おみくじを引いたり、健康や気候に関する言い伝えを口にしたりするのさえ、この語一つで旧弊で非科学的だとされかねなかったのです。それゆえ今でも、おみくじを引くのに、何となく連れの人たちに気がねする癖が抜けません。
おみくじ案内人を名乗る平野多恵さんの『おみくじのヒミツ』(河出書房新社)という本が出ました。和歌文学をがちんこで研究している平野さんが、こういう本を出すのは意外なようですが、歌占や託宣は和歌研究の大事なテーマ。軽々と、古典を身近にする試みをやってのける世代です。「おわりに」は、世代を越えて身につまされる人も多いのではないでしょうか。