乃木大将の母

子供の頃、茄子の味噌汁が苦手でした。茄子自体は嫌いではなく、焼茄子は大好きでしたし、炒め物や天麩羅、糠漬も好きでしたが、芯の部分が味噌汁の中でざくざくどろりとなっているのが厭だったのです。すると決まって親からこう言われましたー乃木大将は子供の頃茄子が嫌いだったので、お母さんが「軍人は好き嫌いがあってはいけない」と、毎日茄子の味噌汁を出した。それで乃木大将は好き嫌いを言わなくなった、と。

この話を同年代の従妹にしたところ、「あっ、その話、うちでは茄子でなく人参だった」と言う。どうも親たちは、自分の子供の嫌いなものにすり替えて話していたらしい。原話は修身の教科書か何かに載っていたのでしょうか。

ちなみに当時焼茄子は手間のかかる料理で、父親の晩酌のつまみ用、子供が欲しがるのは身分不相応という雰囲気がありました。それで今でも、呑み屋の品書に焼茄子を見つけるとつい注文してしまいます。美味しかった茄子料理の記憶は、フランス人の友人が、椎茸と茄子の輪切りをバターで炒めてくれた一品。ワインに合います。

ナポレオン3世は子供の頃、母親が起こしに来ると、もう10分、と言う癖があった。長じて行軍中に、休憩後部下が出発を促すと「もう10分」と延ばしたために、敵に囲まれて捕虜になり、母親はあの癖を治しておかなかったことを後悔した、という話を児童向け雑誌で読んだことがあります。出典も真偽のほどもさだかではありません。フランスの子供たちは、家ごとにこの話を聞かされて育つのでしょうか。