古活字探偵23

高木浩明さんの「古活字探偵事件帖23」(「日本古書通信」1144号)を読みました。

今回は「新宮春三と戸川浜男」という題で、古書収集家として有名な小汀利得横山重、新宮春三、戸川浜男らの交流とその蔵書の行方について書いています。小汀利得(1889~1972)はレジェンドと言ってもいい収集家で、その蔵書印があるだけで本の値打ちが上がることは、古書収集家でもない私でさえ知っていました。

小汀の蔵書は昭和47年に売り立てられ、今はどこに何があるかも分かっていませんが、高木さんによると、調査の先々で彼の蔵書に出遭うことは屡々で、全体の規模がどのくらいだったか、想像するだけで驚嘆するほかはない、と言っています。収集家たちの異常とも言えそうな熱意と、各人の流儀とが交錯する逸話は多く、新宮、戸川、横山の手を渡った本に彼らが残した識語や書簡からも、有益な手がかりが得られるらしい。

高木さんは今夏、立正佼成会付属図書館で調査をし、戸川浜男旧蔵の五山版『禅林類聚』を発見したのだそうです。立正佼成会がいい古典籍を持っていることは知らなかったので、近年の文献学進展を思いました。五山版『禅林類聚』は中国の元時代の刊本を底本として、多くの僧徒からの寄付を集め、貞治6年(1367)に臨川寺で刊行されたのだそうで、版芯には寄付した人の名と金額、底本とした元刊本の刻工の名が印されているというのです。今で言えばクラウドファンディングの結果、というところでしょうか。中世にもそういう事業があったんだなあと感心しました。本書は原刻の国会図書館本より後、補刻本より前の善本だそうで、高木さんから来た本誌の送り状には、誌面の都合で書ききれなかった寄付人名の追刻が翻字されていました。

なお本誌40頁には『長門本平家物語の新研究』(花鳥社)を紹介して頂きました。