古活字探偵13

高木浩明さんの「古活字探偵事件帖13」(「日本古書通信」1月号)を読みました。「伝嵯峨本の行方」と題し、源氏物語の古活字版、中でも一時有名な収集家の手に渡った「伝嵯峨本」について書いています。源氏物語の専門家には周知のことなのでしょうが、門外の私は、古活字版が4種もあるとは知りませんでした。あんな大部の(実用書や思想書ではない)本を、古活字のような手間のかかる方法で出したということが驚きです。

尤も、手間がかかると言えば源氏物語には奈良絵本もあり、豪華な蒔絵箱に入った美装本もあって、他の物語と一律には考えられないのかも知れません。その中で、当初足利末期の光悦本と鑑定された、福島の個人蔵源氏物語54帖は、貸借、借金の担保、転売などを経て大島雅太郎氏の手に渡り、昭和10(1935)年には警察に捜索願が出され、新聞に報道される事態になったのだそうです。新聞記事によれば、この本には絵巻も付随していたとのことで、大島氏は両方揃えば時価2万5千円(換算すれば現代では¥1億3千万、多分それ以上)と語ったそうです。

私はこの本の活字が、字によって大小不揃いがあると書かれていることに興味を惹かれました。古活字版や初期の整版本の中には時々そういう現象が見られるからです。何か意味、もしくは理由があったのでしょうか。

本誌には塩村耕さんの「新たに判明した中根東里の逸事」も載っていて、一つの資料の発見が、従来の伝記の不明な部分をずんばらりと解き明かす、爽快感を味わえます。そのほか三昧堂さんの「古い話」では野上弥生子と室尾犀星の戦時中の軽井沢暮らしが判り、杉浦静さんは『最近新二万句(集)』をめぐって宮沢賢治の作とされてきた俳句の出典を解明、川島幸希さんは永井荷風の著作と校正者神代種亮の逸話を録し、有益です。