翁の世界

東大中世文学研究会第351回にオンラインで参加しました。4年ぶりの新年会だそうで、発表は松岡心平さんの「翁の発生ー歴史的にー」、ハイブリッド方式なので、オンライン参加は16名でしたが、会場は盛会だったようです。

予め配信されたレジュメは手書き、資料はA3の29枚、しかも縦向き横向きを順不同に貼り合わせたという我儘ぶり。身内の会とはいえ果たしてどうなるかと思いながらPCの前に座りました。能の翁についてはさまざまな研究が出ていますが、中沢新一さんとの小さな研究会で発表した内容を基にしたのだそうで、折口信夫以来の先行研究の中でも中沢新一著『精霊の王』(2003)に衝撃を受け、しかし歴史的時間の中で、また翁と宿神の関係を核にして論じる必要があるのではないかと試行しているところ、とのこと。

壮大な話でした。もともと芸能の研究は、断片的な史料と時代の降るフィールド調査から出発するしかないので、総合的な視野で語るなら、こういう風に大胆に連想や推測で隙間を埋めつつ、深いクレバスには目もくれずに跳び越えるのが成功の秘訣なのかもしれません。私は能には門外ですが、若い頃は語り物や芸能全般についても関心を持ち、服部幸雄さんの「宿神論」が雑誌に出た頃(1974年)までは先端研究にも従いて行っていたものの、その後の動向は小耳に挟む程度だったので(それでも翁研究が広範囲に亘ることは知っています)、勉強になりました。

ベルリン国立博物館蔵の翁面に弘安元年(1278)の銘があるそうで、すでにその頃には能の翁はあったらしい。松岡さんの話は猿楽の発生から、翁の表象が頻出する時期の説話、アニメ「雀の戸締まり」までに及びました。なお延慶本平家物語の書写は応永年間(延慶の年時は本奥書)で、堂供養説話は無常の偈を説いたわけではありません。