古活字探偵12

高木浩明さんの連載「古活字探偵事件帖12」(「日本古書通信」12月号)を読みました。「残された謎の足跡」という題で、古典籍を見て歩いていると、ときに不思議な場面に出くわすことがある、という例を書いています。現国会図書館蔵、総見寺(信長の菩提寺)旧蔵の古活字版後漢書に、幼児の足跡がくっきりとついているというのです。よちよち歩きの子供の足くらいの大きさだそうで、本の上を踏みしめて歩いたらしい。しかし書物自体には、精読した痕跡はないそうで、開いて床に置いてあったとすると、虫干しでもしていたのでしょうか。何か理由があって、わざと踏ませた、というわけではないのでしょうね。

この後漢書は、故川瀬一馬氏が前漢書以後引き続いて出されたとして、寛永5(1628)年以後の刊と推定しているのだそうですが、京都大学図書館に、学者の家として有名な清原家嫡流舟橋家旧蔵の後漢書が所蔵されており、それには医師菊池玄春が、寛永元年に記した識語があって、中院通村から贈られた後漢書を参照して寛永元年6月13日から10月24日まで朱墨を入れつつ閲読したのだという。それゆえ古活字版後漢書寛永元年6月以前には刊行されていた、と高木さんは推理しています。

本誌には石川透さんの連載「奈良絵本・絵巻の研究と収集51 十二類鶏犬絵巻」も載っていて、近世初期に創作された絵入り物語(絵巻・絵本)の輻輳した関係(現代の我々が見ると輻輳しているが、当時の事情ではあり得ること)が述べられています。牧村健一郎さんの「山尾庸三と明治6 なぜ、盲唖教育に取り組んだか」にはヘレン・ケラー塙保己一を敬慕していたこと、恐らく電話機の発明者グレアム・ベルを通して保己一の話がヘレン・ケラーに伝わっていたのであろうことが綴られていて、意外でした。