大和言葉集

徳田和夫・菊池仁小林健二編著『大和言葉集』(三弥井書店)という本が出ました。あとがきによれば、徳田さんが同窓の菊池・小林さんを巻き込んで、底本を決め、校注を施し、10年以上かかって、3人が定年を迎えた時期に完成した、とのことです。増補改訂を繰り返し、版を重ねて変貌していった『大和言葉』の根幹は、恋の用語集と謎かけにあるというのですが、不勉強な私は、『日本古典文学大辞典』の6巻と4巻を引いてみて、ようやく本書の取り上げている作品について知りました。

大和言葉』という書物は、元和寛永の古活字版もあるが、刊記のある版では寛文3(1663)年版が最初だそうで、懸想文や恋の対話に出てくる謎言葉や雅語・歌語に略注を付した一種の辞書。延宝年間には『増補大和言葉』が刊行され、和歌俳諧初学者の手引き、古典読解や消息文を書く際に重宝されたという。縦横無尽の本書の解説の最初には、この程度の説明は書いて置いて欲しかったと思います。

本書には国会図書館蔵整版本『大和言葉』の翻刻・注釈のほか、写本2種の翻刻、書誌、索引、参考文献、それに「お伽草子・語り物にみる大和言葉・謎かけ事例集」が付載されています。本書の圧巻は、付せられた詳しい注釈と補注でしょう。それだけを読んで行っても楽しい。中世文学の饒舌的、衒学的な一面を知ると共に、日本人に伝承され、蓄積されてきた「教養」の様相を見ることができます。

中世の文学を読んでいると、突然、名詞や故事を羅列していく名文調に出くわすことがあり、近代の目からは無駄な装飾としか見えませんが、当時の読者が何をそこに求めたのか、本書を通して考えたいと思います。版元によれば、表紙デザインにも謎が忍ばせてあるそうで、定年後にこんな楽しみを共有できる、男の友情もまたいいですね。