源氏物語の壁

先日歯医者に行く前に寄った本屋では、源氏本のコーナーが出来ていました。来年の大河ドラマに備えてでしょうが、未だ精選されているようには見えず、量も多くはありませんでした。ぼつぼつ展覧会の公告などを見かけますが、本格的なイベントはこれからでしょうね。そこへ、竹内正彦さんの『名場面で味わう源氏物語五十四帖』(ベストブック)という本が出ました。全312頁の選書判、厚い割には手によくなじみ、細切れの時間で読み進めるのにも便利です。ただ脱字が時々見られるのは、編集者の不親切。

序章によれば、いわゆる三部構成説に基づく第一部をさらに3つに分け、1光源氏の青春 2復活 3栄華 4晩年 5没後 という風に、全体を光源氏の物語としてとらえて、54帖の年立、梗概を掲げ、その後、各帖から名場面数行を抽出し、現代語訳と解説を付しています。入門書ではあるが、原文にまず触れて欲しい、というのが竹内さんのこだわりです。名場面の選び方、意訳に近い現代語訳、解説には必ずと言っていいほど、竹内さんが注目、掘り下げた観点が1点は示されています。

竹内さんは2017年に『2時間でおさらいできる源氏物語』(大和文庫)という本を出しており、そのほかにも図説を付けた梗概本を何回か出してきました。源氏物語の粗筋、巻名、主な登場人物を知っていることは、日本人の素養と言えるかも知れません。私はまず与謝野源氏をを10代で読み、大学に入ってから山岸徳平氏の校注で原文を読みましたが、親切心で付けられた傍注がうるさくて楽しめませんでした。まずは梗概本や短い原文から入門して、この長編読破の壁を超えるのも一案です。殊に和歌によって支えられた、自然と心理の混融した世界の魅力は、原文なしには知ることができません。

それにしても来年は、源氏源氏の1年になるのだろうなあ。