國學院雑誌1398号

國學院雑誌10月号に、平藤幸さんによる『那須与一の謎を解く』(野中哲照著)の書評が載っています(本書についてはこのブログでも昨年紹介しました)。本誌は書評と紹介とを明確に区別していて、割り当てられる紙数が違うのですが、6頁2段組の分量を見誤った感があります。全322頁の本の1章1節ごとに要約を書き出したため、評者の見解や批評は10分の1にも満たない。「・・と言う」「・・と見る」という文末が繰り返され、息切れするほど文章が走っていて、本全体のイメージが残りません。p52上段の著者独自の諸本論などは、評者自身の意見をぶつけることによって、新たな研究方法への関心を惹起することもできたのでは。「圧巻の全編」とか「虚実を越えて物語の「那須与一」を実在させるべく紡がれた、紛れもない研究書」という日本語は、よく理解できませんでした。書評は文芸的表現ではない方がよい。平藤さん自身の那須与一論、平家物語の読み方の論を、基盤として示して欲しかったのです。

本誌には、史料には日常生活の瑣事は残らないが、歴史としてはそれらも存在したものなのだ、と述べる江川式部さんのコラムや、19世紀を中心に記紀の翻訳史を展望した平藤喜久子さんの「日本神話はどう読まれたか」、院生の津金澪乃さんの「昔話「天人女房」の伝承と変遷」なども載っています。殊に津金さんの論は、やりにくい伝承話の分類と変容過程追究とを、敢えて試みた点で面白かった。但し文献資料の中でも、御伽草子や能は創作であることが明確なので、論中に断っている通り、伝承の記録と一律には扱えないと思います。

ちなみに本号は巻頭に喜久子さん、巻末に幸さん、平藤姉妹の名前が燦めく号になりました。お問い合わせは國學院大學文学部資料室 電話03-5466-4813まで。