2冊目の俊成伝

同じ著者、同じ版元から出された2冊の藤原俊成伝①久保田淳『藤原俊成伝 中世和歌の先導者』(吉川弘文館 2020) ②同『藤原俊成』(人物叢書 2023)を読みました。①(年譜、参考文献、索引共500頁弱)についてはすでにこのブログに書きましたが、②は叢書の体裁に合わせて①を抜粋しつつも、別の本になっているところが見事。今回、私は②を読みながら随時①を参照、比較しました。

②は御子左家系図、略年表、参考文献を付して全300頁強、活字が大きく、読みやすくなっており、原文引用はすべて現代語訳されています。1家系 2崇徳天皇に仕える 3崇徳院の内裏歌壇にて 4政変と内紛の世に宮廷歌人として 5平家の栄華と歌壇の大御所俊成 6源平争乱のさなか『千載和歌集』を編む 7九条家の歌の師として 8後鳥羽院の歌壇と御子左家 おわりに という構成になっています。

前半1~5くらいまでは、紙数の制約のせいか、年記と人名が早口でまくし立てられる感じがあって、初めて読む人はまごつくかもしれません(私は、和歌史研究は年代と人名、人間関係が明確で羨ましい、という目で読みましたが)。改めて俊成一家の華麗な家系と、家長としての振舞が印象に残りました。後半になり、和歌の詠作や判、歌論などが例歌を引いて説明されるようになると、歌人伝として楽しめます。実際に俊成の大業は、後半生、60代以降に成されたようですが、著者のまなざしも、対象が老境に入ってからの方が寄り添う密度が濃くなる気がするのは、私の勝手な主観でしょうか。

どちらか1冊という人にはやはり①がお勧め、②はむしろ事情通向きですが、②の「おわりに」は深く心に残ります。伝記の最後に置かれると、著者による、人生そのものへの観照を告げられた気になって、書を閉じることになるのです。