梅雨明け前の猛暑日

なんて暑いんだ!脳みそが溶けそうだ、と書いてあった故堤精二先生の暑中葉書を、最近よく思い出します。学部時代に近世散文文学を習い、その後『国書総目録』作りのバイトでお世話になりましたが、ある年の葉書の1行が、一番深く残る思い出です。

梅雨明け10日、という言い習わしがあるそうで、未だ梅雨明け宣言が出ない関東では、本格的な猛暑は未だこれから。だいたい32度まではしのげますが、38度となると、金太郎ファッションでも「小水の魚」状態。思うに32度は、身体が作られた10代の頃の「猛暑日」の気温で、それが限界温度になっているのでしょう。36度を超えると自分の身体が一番冷たいわけで、何を触っても熱い。我が家は風通し抜群なのですが、そうなると熱風の塊が吹き込んでくる。座った椅子の背もうとましく感じます。

いま思うと、籐椅子、打ち水、寝茣蓙、陶製枕など、70年前に大人たちが利用していた消夏法は合理性があったんだなあと感心します。近年流行る携帯扇風機は、60年前すでに、同級生が持ってきてみんなを驚かせました。珍しく花柳界の家庭の人でしたから、和服の人たちに重宝がられていたのかもしれません。勿論、現在のようなプラスチック製ではなく重い金属製、扇子の方が涼しいと思いました。

1日が終わるとへとへと、生存だけを毎日の目標にしようなどと考えてしまいます。ストッキングをぴっちり穿いて出勤していた日々があったなんて、我ながら信じられません。

それでも元気なのはコリウスやコキア、日々草などの夏の植物です。菫の葉や観賞用唐辛子の苗も元気一杯で、彼らにはこの暑さが必要なんだと思わせます。宮古島からは見事なマンゴーが届きました。送り主は小さなレストランのオーナーシェフ、今日も炎天下で働く人たちや観光客を迎える厨房に立っているでしょうか。

追記:御礼の電話を掛けたら、マンゴーは匂いが立ち、表面に蜜が染み出てべたべたしてきたら食べ頃、と教えられました。仏壇で両親に堪能させる期間があって、ちょうどいい。宮古島は観光客が増え、開店5年目の店は繁忙期に入った、とのことでした。