柳葉和歌集新注

中川博夫さんの『柳葉和歌集新注』(青簡舎)という本が出ました。全720頁余、奥付に「宗尊親王集全注4」と謳っている通り、『瓊玉集』『竹風抄』『中書王御詠』と、宗尊親王の現存家集の中、初期の『宗尊親王三百首』を除く全てに、新しく注が施されたことになります。大業というべきでしょう。

宗尊親王(1242-1274)は後嵯峨院第2皇子、11歳で鎌倉将軍職に就き、その職を逐われて帰京するまで15年間を鎌倉で暮らしました。述懐色の強い平明な歌風とされ、3千首以上の詠歌が残っており、京極派前夜、鎌倉歌壇全盛期の和歌史研究でも取り上げられるようです。書名の「柳葉」は将軍の住居を意味する「柳営」に因んだもので、弘長元(1262)年以降文永3(1266)年以前に成立した自撰家集。私には、平家物語が生まれ、成長しつつある時期、鎌倉と京との文化交流の時代として関心があります。

本書は、令和2年から3年にかけて「鶴見大学紀要」に発表された稿をもとにしており、注釈は本文に現代語訳、本歌、参考歌・類歌、他出、語釈、補説を付し、解説、底本の百首歌の構成、他出状況、初句索引などを併載しています。宗尊親王は殆ど全ての自作を定数歌に編成しており、門外漢の私は、どういう意図があってそうしたのだろうかと不思議な気もしました。

解説は簡にして要を得た、すっきりした文章です。本歌取を詳しく考察した中川さんならではの、本歌から踏み出した部分に注目して、作者の正統的教養と生来の述懐性とを評価する手際が鮮やかです。引例を見ながら、和歌表現の世界では、一見新鮮そうに見えても必ずと言っていいほど前例があり、それらをどう活かし、どれだけ飛躍させながら自らの情感を籠めるかが勝負なんだなあ、と改めて認識しました。