『明日へ翔ぶ6』を読んで

中世英文学が御専門の多ヶ谷有子さんに、『明日へ翔ぶー人文社会学の新視点ー 6』(風間書房)をお送りしたところ、読後感のメールが来ました。多ヶ谷さんはアーサー伝説を始めとする古典英文学やキリスト教文化に詳しく、欧州での留学経験もおありです。

【どの論文も良く資料をあたり、丁寧に誠実に書いてあるのが印象に残りました。

「モクソン版『テニスン詩集』におけるロセッティの挿絵について」(浅野文香)ー丁寧に資料にあたり、誠実な姿勢で論じている良い論文だと思いました。挿絵の説明もわかりやすく、論旨もよくわかり、楽しみながら読みました。Gabrielをゲイブリエルと記すのは英語読みにしたのでしょうか、父親の名前はガブリエーレと表記していますから使い分けているのでしょうが、父親は息子を何と呼んだのだろうかと暫し考えてしまいました。私は彼の激しい魂に惹かれていますので、挿絵と詩にそれが反映されていると思うのですが、浅野さんの関心とは違うようです。なお「・・・と考えられる」、「可能性が高い・・・」という言い方が多いのですが、学生の頃、「『以下は私の仮説です』と最初に述べ、後はその内容なので断定しましょう」と教えられました。これだけしっかり書いた論文ですから、遠慮しないで。

「中澤弘光の「四季四部作」に関する一考察(長嶺勝磨)ー中澤弘光は好きな画家ですが、このような見方があるのだと思いました。これはこれで筋が通っているので、他の見方もあるかなと関心がむきました。】

じつは長嶺論に私は異論があるのです。「野路(露)」ですが、女性2人は姉妹というより主従に見え、背景の路が印象的。祇王祇女より徳子の「大原入」が相応しいのでは。

【「「背徳の子」を抱くマギー・ヴァーヴァー」(川村真央)ーヘンリー・ジェイムズは学部時代よく読みましたが、かつてと同じ問題が今もなお追い続けられているのだなぁと思いました。彼の作品はどれもミステリーを解くような謎があり、この論文も面白く読みました。

マルゲリータ・ダ・コルトーナの『事績録』と告解の問題」(白川太郎)ー私のテーマとも重なるところがあるので興味深く読みました。中世イタリアの宗教事情について良く知っているわけではないのですが、ローマで学んだ教会史とは少し違った世界がえがかれているようです。宗派的立場が変われば見方も変わるので、白川さんの立位置がよくわかりませんでしたが、こういう見方もあるのだなと思いました。

どれも真面目でいい論文だと思いました。何が問題でどう論じるのかがよくわかり、丁寧に読むことができます。みなお行儀がよく慎み深い論調で、もっとご自身の意図を前面に出してもいいと思うのですが、それは未だ先のことかもしれません。私が言いたいことを思い切って言うようになったのは、40代を過ぎてからでした(多ヶ谷有子)】。