鱓(ごまめ)

多ヶ谷有子さんの研究室の論文集『チョーサー・アーサー・中世浪漫Ⅲ』(ほんのしろ)が出ました。多ヶ谷さんの論文「チョーサー『カンタベリー物語』の「免償符売りの話」」のほか、ゼミのOBたちの書いた、英文の論文3本及び邦文の論文2本が収められています。多ヶ谷さんの論文は、思いがけず入手した財宝を、仲間を殺して独占しようと図り、結局全員が死んでしまう、という説話が中国から日本へ、一方で印度から英蘭へ伝わってチョーサーの作品に結実したとし、類話との比較によって作品の再解釈が可能になる、と論じています。

本書は多ヶ谷さんの定年退職記念でもあり、序跋に彼女の文章が据えられ、また執筆者紹介も多ヶ谷さんの温かい筆になるもので、36年間の教育者生活が、一貫して変わらぬぬくもりに満ちたものであったことが、ありありと分かります。

跋文の「鱓の歯軋り」には、在職中伸び伸び勤務できたことへの感謝と共に、今後の英語教育のあり方について、しっかりと意見を述べておられます。大学人として幸福な現役生活だったことが窺われ、ちょっと羨ましくも感じましたが、これもご本人の人徳ゆえのことでしょう。

鱓(ごまめ)を「古女」とも書くとは初耳だったので、辞書を調べたら、エイのことを古女と書くらしい。「ごまめの歯ぎしり」の類語に、「石亀の地団駄」という語もあるのをついでに知って、言い得て妙、と感心しました。