西洋文学の目でも

中世英文学がご専門の多ヶ谷有子さんから、日本の軍記物語研究について、メールを頂きました。最近、「グウィネヴィアと建礼門院―贖罪と後世の弔い―」という論文を発表されたばかりです(『アーサ-王伝説研究―中世から現代まで―』中央大学出版部)。アーサー王物語に登場する王妃グウィネヴィアと『平家物語』の建礼門院を比較し、六道語りの読みを論じたもの。比較文学だけでなく『平家物語』研究者にもぜひ読んで欲しい1編です。

[軍記物語講座3『平和の世は来るか―太平記』を読み始め、まずは「まえがき」と「あとがき」を読ませていただきました。
ここに示された問題は、西洋文学を学んでいる私たちとも共通したところがあると思いました。文献学が堅固だった時代、提示された資料はかなりの信頼をもって引用したり、典拠にしたりすることが出来ました。往年の文献学者の学識の深さ、広さ、人となりの幅広さ、加えて努力と辛抱強さは大変なものでした。ここ30年位、地道な研究がないがしろにされ、上っ面の面白さや奇抜な着想で論文を書く研究者が増え、根底のところで作品の本質や、作品が生まれた時代・社会を誤解する傾向が現れるようになりました。そうした理解は、表面的な意味の底にある、見えにくいものをとらえるための研ぎすまされた鋭敏さや洞察が必要ですが、今は論文の数だけが問題にされる傾向があり、作品をじっくり、ゆっくり味わいつつ理解し、愛情を以て研究する時間がないようです。

太平記』も酷い目にあって大変だったのだと、改めて作品に愛おしさを覚えました。これから各論を読んでいきたいと思います。](多ヶ谷有子)