法の水茎

高橋秀城さんの『法の水茎―和歌とおはなしでひもとく仏教―』(武蔵野書院 2021)を、ぽつぽつ読んでいます。高橋さんは大東文化大学の出身、現在は栃木県の真言宗のお寺普済寺の住職です。中世密教文学の研究者でもあり、故徳江元正さんがとても期待をかけておられました。本書は高尾山薬王院の「高尾山報」に2012年から20年まで、100回連載した「法の水茎」を元にしたそうで、日本の古典文学作品を入り口として仏教の教えに近づけるよう編んだ、と前書きにあります。

なるほど平家物語を初めとして、仏教説話集、法語、随筆、万葉集大鏡などさまざまな古典文学、時には民話や近代文学にも、また連想される和歌や歌謡にも言及して、そこから高橋さんの法話を語り出す短章が並ぶのですが、五大、感情、六根、四苦、八苦、十善戒、八正道、六道、無常、時間という章を立て、見出しを付けて読みやすくしてあります。一種のアンソロジーでもあり、じつにさまざまな古典を見渡して、易しい言葉で、優しい声音で書かれているので、知らず知らず引き込まれます。

私は中でも、巻末に付加された「菩薩行」という亡き父上を偲ぶエッセイに惹かれました。山形の銘酒「弁天」を愛した父を知ろうと、呑み慣れない酒を呑む息子の耳に、焦らなくても酒の旨さはやがて分かるようになる、と告げる故人の声が聞こえ、ふと菩薩行という語を思い浮かべる、という話です。

本書は総ルビ、430頁余。編集者の工夫も凝らされていますが、私はもっと薄い、片手で持ちながら読める本にして欲しかった気がします。高橋さんには「坊さんブログ、水茎の跡。」という、穏やかな、しかしかけがえのない日々を綴るブログがあり、歳末のせわしないひととき、一見するのにいいかもしれません。