国語をめぐる冒険

岩波ジュニア新書『国語をめぐる冒険』を読みました。渡部泰明さんが序を書いていますが、5人のリレー執筆のようになっていて、編集部もかなり関わったのではないかと思われ、以前『ともに読む古典』(笠間書院 2017)を編んだ私としては、企画・編集の過程を知りたい気がします。1国語は冒険の旅だ(渡部泰明) 2言葉で心を知る(平野多恵) 3他者が見えると、自分も見える(出口智之) 4言葉で伝え合う(田中洋美) 5言葉の地図を手に入れる(仲島ひとみ) という構成になっていて、さらに国語学的な話題を出口さんがコラムとして書いており、5人の共著です。

1は『伊勢物語東下りの段を中心に、文学と生きにくさの問題を取り上げ、2は歌占を中心にして自分探しと言葉について語ります。3は太宰治の「走れメロス」と中島敦山月記」を取り上げて、文学と虚構の問題を考えています。4は文章を「書く」ための手順を説明、5は日本の近代における「国語」教育の輪郭を描き出しました。

1,2も大変有益でしたが、私には3が面白かった。「走れメロス」の幕切れについてはちょっと議論したくなったりしました(王様と3人で仲良し、なんてありえないし、物語内のメロスへの褒賞は、緋のマントだったのだし)。李徴の騙り(語り)を指摘する読みは今の教室では常識なのでしょうか、60年前の教室では習いませんでした。4は文章がぴょんぴょん跳びはねていて、わかりにくい。5は問題の規模に対して紙数が足りなかった気がします。国語学、殊に文法(その変遷、学校文法とは、読解への有用性)について1章立ててもよかったのでは。

読者対象はどの辺でしょうか、高校生?理系の大学生?レイアウトはよく工夫されてはいますが、私には太字で組まれているのが少々煩わしく感じられました。