新出平家物語断簡

6月18日まで慶応大学三田キャンパスの東別館で開催されている展示「文字景ーセンチュリー赤尾コレクションの名品にみる文(ふみ)と象(かたち)」に、伝世尊寺行俊筆の断簡が4葉、出陳されています。そのうちの3葉はいわゆる「長門切」と呼ばれる読み本系平家物語の断簡、もう1葉は紙背に「世尊寺行俊卿/巻物切平家物語」と記された、仮名仏書の一部だそうです。 https://kemco.keio.ac.jp/all-post/20210219/

図録の解説によれば、本コレクションは旺文社の創業者赤尾好夫氏と古筆学者小松茂美氏の目利きで蒐集され、書跡を中心とした膨大なもので、斯道文庫との共同研究も行われてきたようですが、この度全体が慶応大学に寄贈され、その保管・研究・展示のためにミュージアム・コモンズが創設されたとのことです。コレクションの中には古筆本家に伝わる古筆資料もあるそうで、この4葉はその中に含まれていたらしい。

長門切と判断される3葉はいずれも界があり、A「帝王まて」2行、B「又あるゆふくれに」6行、C「人々もおほく」5行。斯道文庫の佐々木孝浩さんは、長門切は3手以上の寄合書だと見ていますが(『日本古典書誌学論』笠間書院 2016)、展示のABは同筆、Cは別筆で、仮名仏書Dはもう1種の長門切の手に似ていると図録で解説しています。ここ数年来、「月刊長門切」を出そうかと冗談を言うくらい新発見が続きましたが、さらに新たな資料が出てきたわけで、わくわくします。

Aは源平盛衰記巻26「入道非直人」の一部、Cは巻18「文覚流罪」の一部に近似しており、字句の異同はあるものの長門切の平均的本文の範囲内といえます。Bは内容からみて巻26「入道死去」か巻17「福原怪異」かと思われますが、源平盛衰記にも他の平家物語諸本にも、ぴったり一致はしません。現存長門切の中には、1割程度こういう独自本文があるので、これもその例でしょう。