明月記断簡

5月の半ば、仕事仲間から1通のメールが来ました。テレビ東京の骨董鑑定番組に、明月記断簡が出陳されることを知ってるか、という内容です。番組予告では高額の評価がつくらしい、しかも所蔵者は故水原一氏の家族らしい、実見したことがあるか、と言う。水原氏は平家物語の研究者、殊に延慶本平家物語古態説を主唱し、現在もその影響をつよく残している人です。御自宅へ伺ったこともあるし、鳥取へ講演に来られた時はゼミを挙げて御案内もしましたが、明月記のことは特に記憶にはありません。

早速、テレビ東京の「開運なんでも鑑定団」(5月25日放映)を視聴しました。「依頼人」として出て来られたのは奥様で、高齢ではあるがお元気な様子。生前の水原氏が知り合いの骨董屋から勧められ、¥900万で購入、5年かけて分割払いをしたとのこと。なるほど、癖の強い定家の筆蹟らしい断簡が軸装されています。鑑定士は書が専門の増田孝、真物との判定で¥1200万の値がつきました。出てくる人物の官位を考証した結果、建久5(1194)年11月29日から12月2日の部分だという。

依頼人は嬉しそうでしたが、今後、自宅のセキュリティが大変だろうなあ、とつまらぬ心配をしてしまいました。後日、専門家から教えられたところでは、学界では存在が知られていた断簡だそうで、『明月記研究提要』(明月記研究会編 八木書店 2006)には通し番号12で載っており、昭和10年の某大名家の売り立て目録に掲載され、1987年に五島美術館で開催された『定家様』展には、年次不明として出品されたとのこと。

改めて『明月記研究提要』の頁をめくり、大きな仕事だなあと感心しました。五味文彦さんが率いた日本史と国文学のチームの成果ですが、現在82葉発見されている長門切も、こういう一覧(できれば画像付き)が公刊できればいいのに、と考えたりしました。