國學院雑誌1365号

霧林宏道さんの「『日本霊異記』における説話叙述の方法ー『冥報記』との比較からー」(「國學院雑誌」1月号)という論文を読みました。9世紀初頭に景戒が編纂した『日本霊異記』は、7世紀後半、唐臨が志怪小説に倣いながら仏教説話をも加えて編んだ『冥報記』の影響を受けたことを自ら明かしていますが、霧林さんは、説話の構成や叙述方法に注目して、両作品の関係を考察しています。

日本霊異記』中巻10話と『冥報記』下巻8話、同じく下巻13話と上巻8話を比較した結果、『冥報記』が子を思う親の情を中心に、叙情的な表現方法を採っているのに対し、『日本霊異記』は叙事に重きを置き、奇事を事実として理解させて、冷静に因果を説く宗教者の姿勢が表れている、というのが結論です。

霧林さんは卒論以来、高校教諭として勤めながら一貫して『日本霊異記』を研究してきました。当初は伝承の観点からの考察が多かったのですが、書き言葉で書かれている本作品の特性を重視し、影響関係や表現方法へと軸足が移ってきたようで、それは説話文学研究の趨勢とも並行しています。一つ苦言ー脱字が多い。ケアレスミスが多いと信用度が下がります。PC画面でなく打ち出し紙で念入りに校正すること。

なお本誌には、神長英輔さんの「戦後日本のコンブ業」という論文が載っていて、これが興味深く、つい読みふけりました。戦前戦後で、日本における昆布の生産、加工、販売、輸出入がどう変化したかをたどる論文ですが、東北アジアの歴史的動向と深く関わり、日露交渉史や中国の産業史、日本の貿易や水産業の変遷にも言及しています。私には、身近な昆布がだし材料から多様な加工食品に展開し、そのうち高級品は驚くほど価格が高くなった経緯など、この半世紀の変化の背景がよく分かって有益でした。