青山

父の命日が近いので、彼の好きだったフリージアを花屋に取り寄せて貰いました。白と紫を計30本。うち10本にほかの花を足して、青山霊園へ出かけました。例年通り、母方の祖父母の墓にまずお参りします。20年ほど前、初めて来た時は鬱蒼と木々が生い茂り、本家の従姉からはすぐ分かるよ、と言われたのに、線香が燃え尽きるほど探し回っても見つかりません。諦めかけた時、ひょいと梢を見上げたら、木の間から墓石が僅かに顔を出していました。今は並木の桜も植え替えが進み、周囲の木が刈り込まれて、青空にくっきりと墓石が立ち、背後には赤坂や六本木の超近代的な高層ビルが聳えています。

その後墓地を縦断して、旧友の墓にお参りしました。並木の桜は樹1本にやっと1,2輪咲いているくらいで、桜の花って1輪だとこんなに小さかったっけ、と思いました。旧友の墓の前の水場に植えられた河津桜が満開で、蜂や虻が三々五々、蜜を吸いにやって来ています。ダウンを着ずに来たのですが、タートルネックが煩わしいほど暖かい。ベンチでゆっくり新聞を読むことにしました。風の中にかすかな花の匂いが混じっています。沈丁花でしょうか。亡くなってから40年、子供たちはそれぞれの道を歩み、彼女によく似た面差しの孫も2人できました。10代の頃の2人に戻って、一緒に花の下に座っている所存だったのですが、ピクニック気分の2人連れが隣に座って、英語で喋りまくるのがうるさい。墓前のフリージアに手を振って、帰途につきました。

青山は通りの店が始終入れ替わっています。空いているイタリア料理店で昼食を摂り、何年続いているか訊いてみたら、7年目でこの辺では最古参になったそう。来年もやっていてね、と言って出ようとしたら、1年後と言わずまたどうぞ、と返されました。