グリコ的修辞法

製菓会社の子育てアプリと称する宣伝活動が、問題になっています。共同子育てには、妊娠期からの夫婦間のコミュニケーションが必要、というコンセプトは万人が肯定するでしょう。しかし男性脳・女性脳の相違、という非科学的な説明ですべてを解決しようとしたところが間違いだった、と言われているようです。

以前、同じマンションの若い専業主婦との茶飲み話で、主人に何か愚痴を言うと、こちらはただ聞いて貰えればいいだけなのに、ああしたらどうか、こうしたらどうかと考えてくれるので、却って面倒になる、と言われたことがありました。一見、あの「こぺ」回答に似ていますが、本質的に違います。彼女の夫が、一緒に問題解決に乗り出して呉れる習慣だったら、そうは言わないでしょう。彼女の日常的解決法にはお構いなく、鳥瞰的・評論家的正論を述べるだけだから腹が立つのです。

ツイッターに溢れる怒りの声は、なまじ子育てアプリなどと、お役立ちツールのような体裁で、猫撫で声の、莫迦げた情報を流しているからでしょう。監修者の「感性」に基づく著作が飛ぶように売れているのは、血液型性格判断や星占いと同じく、あああるある、そんなこと、というくらいに笑いながら受け止められるからです。子育ては笑いごとではない。脳の違いに還元してしまったら、努力や知恵では直しようがありません。女は女に生まれるのではない、女性であるように育てられるのだ、と言った哲学者がいました。男性も同じ。社会的に習慣づけ、方向づけられるのです。

かの製菓会社の企業コンセプトを読むと、この失敗は起きるべくして起きた、という気もします。かつては創業時のキャッチコピーの「300m」の科学的根拠が、話題になったこともありましたっけ。キャラメルだけで走れるわけではありませんよね。