主権者のひとりから

日本学術会議会員候補者の政府による一部任命拒否に関して、「学問の自由」「言論の自由」を根拠に批判が始まったとき、一瞬、それじゃ駄目だ、と思いました。公務員の任命権を楯にしてくるだろう、という現政権の姿勢は当初から推測できたからです。おまけに10億のカネを出してる、という発言まで出て、かつて流行った「品格」という語が眼前にちらつきました。

報道によれば、長かった前政権時代からすでに、少なくとも2,3度は、こうなる兆候があった。権力への押し戻しは、絶えず、小さな芽を摘んでおくことが肝心です。当時の学術会議首脳部の甘さは、今後の戒めに記憶されるべきでしょう。

ごく短簡に言えば、今回の政府の措置は、人事権の濫用です。下世話に言えば、気に入らない者への「いやがらせ」にすぎず、政権にとって何の得にもならない。

何故なら、科学者の反対に遭って実現できないような政策は、そもそも間違っているか、効き目のないものだからです。科学者たちは、何の権力も金力も持っていない。できることは、客観的根拠に基づくか、過去の事例に照らした未来予測によって、政策を点検したり助言したりすることだけです。その中に、自分と異なる見解を持つ人を数人入れておくことは、権力者にとって、一種の安全保障でしょう。

そんなことも判らずに、「国民の権利」を代表して行使しているのか。10月2日付の学術会議要望書は極めて単純明快です。これに正面から回答しなさい。俯瞰的だの総合的だの、固有名詞を伴う拒否理由などは要りません。すべての前例踏襲をやめたら、明日から仕事はできないはず、変更に当たっては具体的な理由の説明が必要です。

一時の面子より後代の検証を考えて。総理の品格が問われているのだから。