古活字版から整版へ

岩城賢太郎さんの「『源平盛衰記』における古活字版と整版とー表紙裏古活字版反古無刊記整版本の調査報告を手掛かりにー」(「武蔵野文学館紀要」13 2023/3)を読みました。丹念な調査に基づき、元和寛永古活字版から乱版(1冊の中に古活字版と整版の丁が混在する版本)を経て整版本へと変わって行く間に、意図せぬ本文変化が起き、それが後のテキストに受け継がれていく現象を追究しています。

源平盛衰記は、近世を通じて無刊記整版本が繰り返し刷られました。慶長古活字版以前の写本は限られたものしか残っておらず、その後字詰めを圧縮した元和寛永古活字版が出て、それを元に乱版や無刊記整版本、絵入り版本2種が出ました。乱版が何故作られたのか、乱版と整版本の先後については未だ説が確定していません。

岩城さんは最近、元和寛永古活字版の刷り反古を表紙の裏打ちに使用した無刊記整版本25冊(総目録共49巻を合冊)を入手、これを見ると、古活字版と整版本の印刷工房が近い(同じ?)ことが推測されると言っています。慶長版や元和寛永版にはルビなど加点がされていませんが、乱版にはあり、どうやら活字にルビも付けて彫ったらしい。中には漢字を誤って当てていながらルビは正しい(つまり底本の語に一致)という例もあり、誤ったまま無刊記整版本以降に受け継がれた例もあるとのこと。但しp48下段に挙げられた例の中、「相撲」と「相様」は活字の転用ではないかと私は考えています。慶長古活字版でも屡々、字形の似た活字を、文脈の中で見れば誤読はしないだろうとの前提で流用したと思われる例が、ざらにあります。

なお注4の参考源平盛衰記享保本については、皆川完一「『尊卑分脈』書名考」(新訂増補国史大系月報62)と、拙稿「伝本のこと」・「元禄本と享保本のこと」(新訂源平盛衰記月報2・5)が基本。