風信子

寒かった間も植物たちは日々春に向かって息づいていたようで、忙しさに紛れて鉢に移すのを先延ばししていたクロッカスが、ポットに入ったまま咲き始めてしまいました。紫の心算で買ったのですが、咲いた花は白。中央に赤い雌蘂が1本、真っ直ぐ伸びているのはサフランと同じです。ヒヤシンス3株は先週プランターに植え込みましたが、早速1株花穗が開き始め、未だ暫くは蕾を見る所存だったので、慌てました。背の低いままで、白い花は円錐形にならず、手毬型に開くようです。

球根は翌年咲かせるのに苦労するので、なるべく買わないことにしていたのですが、22年間我が家に在ったヒヤシンスが、とうとう今年は芽を出さず、つい買ってしまいました。そのヒヤシンスは、父が亡くなった年に買った紫の3株で、1月の中旬から終末期に入った父を看取るのに精一杯だったため、旧居の一室でひっそりと咲いていた花をろくに見てやることもできませんでした。その後、球根を鉢の椿の根元に埋め、年々貧弱になりながらも10数年、毎春花をつけていたのです。

ヒヤシンスの原産地は地中海沿岸だそうで、トルコの唐草模様の中には図像化された花が含まれています。日本には幕末に入ってきたらしく、風信子、飛信子と書くのは音に当てたのでしょうね。ギリシャ神話ではアポロンの寵童だったヒュアキントスが風の神に妬まれ、円盤投げの事故で亡くなった流血の中から咲いた、ということになっています。子供の頃読んだ本では、だからヒヤシンスの花弁には、今でもAの文字が刻印されているとあって、意味が解らなかったのですが、つまりアポロンのAらしい。

ここ数日の暖かさで、石榴の芽も動き出しました。いま待っているのは紫蘭の発芽とムスカリの発蕾。そろそろ、去年川越から送ってきた河原撫子の種子でも播くかな。