プロメーテウス

米国のオープンAI社の役員会のごたごた。何だか漫画の世界の話のようで、突然解任されたCEOが競争会社に移り、それに9割の従業員が同調するという署名を提出した、という報道には目を白黒させるしかありませんでした。解任され、忽ち復職したCEOが何だかかっこいいように見えますが、ちょっと待てよ、という気になります。

開発を急ぐCEOに社外取締役がブレーキを掛けようとしたのが発端、しかし最新の技術を求め、またその能力に自信のある集団が臆病者の妨害を突破した、という解釈をするなら、英雄物語にもなりそうなのですが、ふと連想するのは核開発のこと。人類未踏の技術開発の当初には、似たような軋轢と熱中がありはしなかったか、と想像するのです。

私だけの妄想かな、と思ったのですが、社会学者の大沢真幸氏が、AIの開発と管理を核開発に準えた発言をしているのを見つけました(朝日新聞11月2日朝刊 「AIと私たち 労働と社会のゆくえ」)。生成AIが基盤にしているのはネット上にただで落ちている知識の合計なのだから、私企業が囲い込んで社会の格差を広げるのはおかしい、国際管理のシステムを考え出して人類共有の財産にすべきだ、核開発の時にもそうしておくべきだった、というのです。現状では夢物語のようだが、と断っていますが、論理的には筋が徹っていると思いました。

しかし人間の競争心は厄介なもので、人類の歴史を推進してきたと同時に相互に破滅を呼び込むものでもある。米国の一会社役員会の紛糾は、後年振り返った時、あれが未来を見通せない人間の悲しさだ、と嘆息しないで済むことを祈りたい気持ちです。核エネルギーを喩えて「プロメーテウスの火」とはよく言ったものですが、AI開発を「バベルの塔」建設に喩えたりするはめになりませんように。