これからだ

午後、若手研究者と長門本平家物語の伝本研究について、あれこれ情報を交換しました。最近世に出た三田本長門本赤間神宮現蔵)のことや、国文研のDBに出ている相愛大学長門本のこと、過去の研究に関連する資料の新発見、従来の伝本研究で欠けていた視点などの話から始まったのですが、新たな情報が幾つも出てきて、長門本平家物語の研究はさあこれからだ、ということを再確認しました。

現時点で存在が知られている長門本の伝本(すべて写本)は、78点あります。しかしこれ以外にも未だ知られていない伝本はありそうです。

半世紀前の私の調査(『平家物語論究』明治書院 1985)は、現存する長門本は旧国宝本と大差のない伝本群とみてよい、ということは確認できましたが、伝本同士の関係や伝来をすべて明らかにすることは絶望的に思えて、幾つかのグループの関係と、書写態度から見て大きく2つの傾向に分かれることくらいしか結論を出しませんでした。

今になってみると、伝本の書写関係はもう少し具体的に追究でき、大名や国学者の人脈を辿れば、近世における、琵琶法師の語らない平家物語へのつよい関心が浮かび上がってくると思われます。どうやら近世の国学者たち、幕末の志士たちが何人も、長門本を書写し所蔵し、講読などに関わってきたようなのです。長門本の研究はまさにこれからです。伝本を1点ずつ丁寧に見て、その背景を探れば、78点は無関係にばらばらに在るのではなく、脈絡がついて来るのでは。恐らく16世紀に平家物語群最後の大規模な本文流動があったと思われ、私たちは近世を通して中世を見ているわけで、その間の平家物語のありようを知ることは、平家物語史を正しく遡るための条件であるはずです。

先は遠いが、伝本研究にこれから出発する人への道標を立てよう、と話し合いました。