中世史研究の現在

國學院雑誌」11月号は「國學院中世史研究の現在」と題する特集です。卒業生と現職の教職員による21本の論文を収載。Ⅰ中央と儀礼 Ⅱ地域と所領 Ⅲ信仰と宗教 Ⅳ史料と制度 という4部構成で、全416頁。

私はⅠⅢⅣを中心に読み、竹本千鶴「秀吉期における新しい茶会様式」、遠藤珠紀「豊臣秀吉の唐冠と子息秀頼」、太田直之「日本古代における縠断ち行の受容と変容」、森幸夫「鎌倉幕府権力者の死去と触穢」、大河内千恵「起請文の罰」、長又高夫「「建武式目」の評価をめぐって」などを面白く読みましたが、これらの題名を見ても分かるように、文化史・社会史・宗教史など広範囲に亘り、ほかに岡野友彦・菱沼一憲・金子拓・近藤好和・高橋秀樹さんらも執筆、室町後期から近世初期が中心です。

圧巻は比企貴之さんの「中世神社史研究史稿」でした。門外の私にしてみれば、若い頃目に触れた名前(例えば商業史の豊田武、無常観の展開を論じた西田長男等々)が続出し、えっ、あの人はこちらが専門だったの?と、大いに蒙を啓かれました。個別神社史の必要性や、宮地直一評価の妥当性などは私には判断できませんが、現在そして今後も必要である作業に、正面から取り組む誠実さとパワーとを嘆賞したいと思います。

通説に凭りかからず、資料や用例を吟味する労作が多いことに好感を懐くと共に、その作業の危うさ、己れを空しうして判断することの難しさを改めて噛みしめました。

編者の矢部健太郎さんは、本誌でも秀吉の刀狩り令と海賊停止令に関する通説を覆しています。2013年11月号「資料がかたる物語、記録からよむ物語」特集に「関白秀次の切腹と豊臣政権の動揺」を書き、連日1000件以上のツイートに襲われ(所謂「炎上」)、その後も快進撃中。お問い合わせは、03-5466-4813同大文学部資料室まで。