古記録入門

高橋秀樹さんの『古記録入門 増補改訂版』(吉川弘文館)を読みました。帯に「もう古記録はこわくない!」とあって、怖いのは私だけじゃないんだ、と苦笑して開いてみると、日本中世史・中世文学を専攻する修士課程の院生が対象、とあります。はしがきによればこの半世紀、歴史学で扱われる資料の範囲が広がり、文書論は進展したものの日記・記録類は注目されてこなかったが、松薗斉さんの『日記の家』(1997 吉川弘文館)を初めとして古記録研究に新しい視点が開け、さらにこの十数年、DBや史料画像の公開、影印本や工具書が続々出されたことを踏まえて、教育現場の要請に応えたとのこと。

内容は1古記録を知る 2古記録を読む の2部構成で、関係文献目録(98~2021)や中世主要古記録一覧などの付録が充実しています。第1部は古記録について、歴史学ではどのように考えられているかという概説、第2部では『玉葉』の治承寿永記事と、『民経記』の儀式次第記事を例にとって、史料の読み方、調べ方を手ほどきしています。前者が入門・手引書としての中核部分ですが、後者が読み物としても意外に面白い。松薗さんが漢文日記の訓読本普及を提言した時、私は反対した(誤りが増えるから)のですが、読み物としての漢文日記全釈が今後どんどん出されるのもいいな、と考え直しました。

じつは高橋さんが『新訂吉記』(2008 和泉書院)を出し始めた時、史料大成があるのにご苦労様だなと思い、一方で活字化された史料を使う際には、歴史学者たちはこれを平気で使っているんだろうか、と矛盾した疑問を抱えながら参照してきたのですが、本書を読むうちに歴史学界に新風が吹き始めたことを理解しました。

私自身、近年は資料環境が激変し、注釈に臨んで途方に暮れていたところだったので、本書に付箋をつけたりカラーマークしたり、仕様を変えながら活用しようと思います。