説話文学会60周年

説話文学会が創設60年を迎え、今季の大会は講演会、シンポジウム、ラウンドテーブル(この名称を使う意味はよく分からない)が1日に詰め込まれました。私は「説話文学研究 つぎの60年に向けて」という会だけオンライン参加しました。オンラインだけでも90人前後の参加があったようなので、来場者も加えれば盛会というべきでしょう。

この企画は急逝した近本謙介さんによるものだそうで、精力的に企画を連発していた彼の軌跡が見える会でした。説話文学研究総論の立場から本井牧子さん、軍記物語研究と題する牧野淳司さん、絵画資料を扱う恋田知子さん、能楽研究の専門家高橋悠介さんが各々、ここ20年の研究動向、問題点と今後の展望を語りました(司会は佐伯真一さん)。4人とも時間が短いので早口、昨日の時点で資料をウェブ上に出していないのに画面共有もせず喋る人もあり、チャットに掲載されているのを見つけて慌ててダウンロード、まごつきました。オンラインの場合は原則として、資料は画面に出して欲しい。

共通して言及されたのは、説話文学研究が他の領域、文学以外の資料、また海外へ向かってひらかれたこと、デジタルツールやデータベースの開発・普及、共同研究の成果、またそれゆえに今こそ、文学の視点からの洞察が必要であることなどでした。私の回顧では、漢文日記などの史料類から説話及び説話の環境を掘り起こす研究も、この時期の収穫ではないかと思うのですが。

近年の軍記物語研究では、自分が勉強していないから知らないだけなのに、先人を批難糾弾して研究史と称する傾向が時折見られるのは、悲しいことです。不足するものを自ら開発しようともがく人間だけが、研究史を見渡すことができるのに。チャットに、仏教文学会と合併することになったら、と書いた人があって、苦笑しました。当たってる。