みんなは知らないこと

福田隆浩さんの『たぶんみんなは知らないこと』(講談社 2022/5)を友人から借りて読みました。作者は1963年生まれ、現役の特別支援学校教諭で、著者紹介欄によれば、児童文学分野の賞は3度目、課題図書・指定図書も出しているベテランで、本書も第60回野間児童文芸賞を受賞しているとのこと。オビには、自分が関わっている、知的障碍を持つ子たちを主人公にした作品がようやく書けた、という気持ちと、果たしてこれでよかったのかという不安とが今も葛藤している、という意味の挨拶が抜粋してあります。

主人公は特別支援学校の小学5年生の女の子、しかし言語や肢体不自由の障碍があり、外部からは3歳児くらいの言動に見えるようです。本作は彼女のモノローグ(他者に言葉で伝えることはできない)と、中学3年の兄のブログ、母親と担任教師や同級生の母たちの連絡帳、学級通信を綴り合わせて構成されていますが、不十分ながらも多角的な視点が導入されて、サクサク読み進めることができます。

クラスは児童3名(1人は多動性症候群があり、もう1人は進行性筋萎縮の病気を抱えた男の子)、担任教師は2名。地域の小学校との交流会もあり、文化祭での創作劇もあって、おおよそ、現在の特別支援教育のありようを(縮小され、理想化されて描かれてはいるが)伝えているのではないでしょうか。

現実にはこんなにすらりと障碍児への理解に達してくれる大人ばかりではないし、中学生にもなれば自分は競争社会に追い立てられ始め、妹に寛大な態度で接することが容易ではなくなっているでしょうし、どうやら新しい恋人もできているパパが、離婚の成立した元妻の子を気に掛けてくれるかどうかー「普通」の教育を受けてきて、「普通」の家族しか持たない人にとって、特別支援教育の中味は未だ「塀の中」だと痛感しました。