阿波国便り・眉山篇

徳島の原水さんから、久しぶりに眉山に登り、展望台から撮った、とメールが来ました。眉山は290mの低山ですが、万葉歌にも詠まれ、徳島県民の心のよりどころともいうべき山です。相模には大山(おおやま)、伯耆には大山(だいせん)、会津には磐梯山があるように、それぞれの故郷に、シンボルとなる山がある。

眉山展望台から

【真ん中にあるのが城山で、麓に平城があったそうです。その手前の大きな建物にはそごうが入っていましたが、一昨年撤退、徳島は国内でデパートのない県2つのうちの1つになりました。】

眉山からの遠望

【遠く、本四架橋大鳴門橋がかすかに見えます。展望台の裏手にはモラエス像があります。モラエスについては、新田次郎が「孤愁 サウダーデ」という小説を書いていますが、未完に終わったため、子供の藤原正彦が書き継ぎました(原水民樹)】。

モラエス

ヴェンセスラウ・ジュゼ・デ・ソウザ・モラエス(1854-1929)はポルトガル出身の軍人でしたが、在日ポルトガル領事となり、日本人女性と同棲し、晩年は徳島で暮らしました。日本文化に関する著述が多く、全集(集英社 1969)も出ているそうです。小泉八雲と並ぶ日本文化紹介者という評価もあるらしく、そう言えば一時期(私の学生時代)、彼の伝記が注目されていた記憶があります。

幕末から明治、開明期の日本に住み着いて、その生涯を極東で了えた欧州人たちは、いまわのきわに何を思ったのでしょう。「サウダーデ」というポルトガル語は「孤愁」という語では言い尽くせない、郷愁、望郷、憂愁、さまざまな感傷を含む語だそうです。八雲はあれこれ読みましたが、モラエスの著作は未だ読んだことがありません。機会があれば読もう、という対象がまた一つ増えました。