曽我物語の絵画化

以前から気になりながら入手出来なかった『<曽我物語>の絵画化と文化環境―物語絵・出版・地域社会』(人間文化研究機構国文学研究資料館編 2016)が手に入り、①出口久徳さんの「組合せ絵入り古活字版『曽我物語』の挿絵をめぐって」、②宮越直人さんの「<曽我物語絵>の諸相―絵巻・絵本の基礎的研究」を読みました。本書は平成24~25年度国文学研究資料館による公募の共同研究「語り物文芸の絵画化と享受環境に関する基礎的研究―<曽我物語>を題材とする絵入り本・絵巻・屏風の考察を中心として」(代表宮越直人)の研究成果報告書です(非売品)。

②に研究状況や本研究の意図、2年間で明らかになってきたことなどが述べられています。私は、曽我物語絵の研究はすでにかなりの量の蓄積があると思っていたので、この時点での状況はやや意外でした。知られている絵巻・絵本の数が少ないことも予想外でした。その後の進展が著しいのかもしれませんが、今後の開拓が期待される分野です。2014年まで4年間、「文化現象としての源平盛衰記研究」という共同研究をした際、軍記物語の絵画化という課題にはどういう方法で取り組めばいいのか、大いに悩んだものでしたが、本書を読みながら、その道はついてきたのだと実感しました。

①は、本文だけでなく挿絵も活字と同様に絵駒を組み合わせて作った版本についての研究です。平家物語にはこういうものはないので、新鮮な感じがしますが、出口さんの視野には他の軍記作品の場合も入っていて、有益でした(出口さんの単著が笠間書院から出るはずになっていて鶴首しているのですが、音沙汰がありません)。

巻末の斉藤研一「曽我物語図屏風」作品一覧・図版掲載文献一覧が有用です。曽我物語絵には富士の巻狩を題材にしたものが多いので、それに関する論文も収載されています。