川越便り・運命篇

川越の友人から、こんなメールが来ました。

【赤バラなども咲き始めました。ほんの少数ですが、色はくっきりしています。実は私はこの「ときめき」の花に初めて出会った時に、一目惚れして、その場で買って帰りました。もうかれこれ10年くらい経ちます。めったに売り場に並ばない花なので、運命を感じたのです。】

ときめき

ふーむ。骨董やペットとの出会いにはよく、一目惚れという人がいますが、花にもあるのか。こういう花形を芍薬咲きというらしい。どこかはかなげですが、それでいてしゃっきりした、くどくない花です。

シェエラザード

千一夜、咄を語り続けて暴君を改心させたアラビア女性の名がついています。リムスキーコルサコフにこの名の交響曲があって、楽器それぞれの個性を引き立てる部分が魅力的。私はもっと肌白の、清潔感と艶麗さを兼ね備えたイメージを想像していました。

ヨハネ・パウロ2世

法皇の名でしょうか。気品のある白です。薔薇の品種、名前の数は万単位だそうで、人名や音楽形式の名がついていることが多いようです。

ギー・ドゥ・モーパッサン

これは文豪の名ですね。薔薇の花形にも流行があって、この花のようにぎっしり花弁を詰め込んだ形が新風なのだそうです。

薔薇は蕾から半開になったくらいが美しい。私が薔薇を見ていつも思い出すのは、子供の頃読んだ「トムおじさんの小屋」という物語です。黒人奴隷の女の子が、唯一優しかったお嬢さんが亡くなった時、そっと部屋に入ってきて、ギンガムのエプロンに隠した薔薇のつぼみを捧げて号泣し、しかし女中頭から、お前はまた盗んだね!とどやしつけられる場面。彼女には花1輪も、自由に手にできるものはなかったのです。