防衛次官回顧録

黒江哲郎著『防衛事務次官冷や汗日記 失敗だらけの役人人生』(朝日新書)を読みました。本屋で見かけて買ってきた1冊です。著者は1981年から防衛庁(省)に文官として勤務、2015年次官となり、2017年に南スーダンPKO日報問題の責任を負って大臣と共に辞職した人。本書は退職防衛官僚のサイト「市ヶ谷台論壇」に連載したものが朝日新聞のサイト「論座」に転載され、朝日編集委員藤田直央の編集を経て刊行されました。職場の後輩たちの教訓になるように書かれ、新聞人の眼を通っているので、文章が正確で分かりやすい。思想性も極端でなく平静に通読できます。

当初、官僚がしかも防衛省出身者が、退職後数年で、こんなに自分の仕事の周辺を書いてしまっていいのか、と途惑いました。省内だけでなく一般公開されているサイトです。しかしそこはちゃんと、書き分けられているのでしょう。成功者の回顧談ではなく、若い時から立場が変わるにつれてしでかした失敗、そこから学んだことを軽快に綴っています。

印象に残ったのは、父親が彼の防衛庁就職に激怒、「自分の命を賭ける自衛官ならともかく、他人を戦地に送り込む文官になるのは許さん」と勘当された、という話です。歴史学者石母田正共産主義に惹かれていることを知った父親が、日本国軍隊についてどれだけ知っているか糾問した、という話を思い出しました。

本書を読んでよかったと思いました。防衛費が大幅に拡大されようとしているこの時期、ウクライナ侵攻のロシアややたら日本海へミサイルを撃つ北朝鮮、巨大な中国から遁走するわけにはいかない日本は、もはや憲法九条がある間は大丈夫、と言ってはおられません。「普通の国」になろうとして軍事力を強め、出撃条件を緩めようとする政治家たちを制御するためにも、防衛省そのものを知ることが必要です。一読を広くお奨めします。