平等院鳳翔学叢

平等院ミュージアム鳳翔院紀要「鳳翔学叢」第18輯を頂きました。和田律子さんが中心になって2012年から連載してきた注釈「『四条宮下野集』研究」全11回が完結したのです。当初は日記文学会の分科会活動として発足したそうですが、専門分野も異なる6人で、11年間もかけて完結に漕ぎつけることは容易ではなかったと思います。

私が殊に感心したのは、『四条宮下野集』にはすでに幾つも、専門家の注釈が出されているにも拘わらず、倦まず弛まずそれぞれの作業を積み重ねてゴールした、ということです。先行研究があるから簡単だ、とは言えないことは、地道な研究者なら誰でも知っていることでしょう。和田さん主宰だったからできたことかもしれません。

本誌には平等院の所蔵する文化財の保存、修復に関する調査報告など多様な分野に亘る研究結果が掲載され、口絵写真や挿入図版も美しい。あの鳳凰堂が、此の世に極楽浄土を幻視させる空間であったことはよく知られていますが、東向きの堂の扉を開けた瞬間、曇天であっても1筋の光線が阿弥陀仏須弥壇に真直ぐ届くということを、私は初めて知りました。僧侶は西扉から入堂し、日想観想図から下品下生図へと通過し、正面東扉の上品上生図へと歩みを進めるという解説を読んで、勤行により浄土の疑似体験が一千年近く守られてきて、今もなおそこに在ることに感銘を受けました。

若杉準治さんの「解体された法然上人絵伝「九巻伝」の復元試考」を興味深く読みました。「九巻伝」は源平盛衰記の成立年代を決める重要な鍵でもあります。増補改編された「法然上人行状絵図」は「九巻伝」を解体、再利用、また補筆して作られている、その痕跡を丹念に辿る試みで、絵巻の改編方法の一面が分かってきます。今後、さらなる試考が重ねられることでしょう。