神戸説話研究会編『世継物語注解』(和泉書院)という本が出ました。神戸説話研究会は、代表池上洵一氏の序によれば、所属・年齢・専門分野不問、入退会自由の研究会だそうで、私たちには、その活動の質と永続性とで、池上氏の名前と共に記憶されている研究会です。本書も会員の自発的な希望によって研究対象を決め、コロナの影響でオンラインを活用しながらの作業になったのだそうですが、執筆者一覧を見ると、ほぼ40年の年齢幅があり、専門も説話だけでなく広範囲に亘っています。
本書の内容は、全60話の説話注釈と、作品、成立、諸本、配列・構成、先行作品との関係、独自説話、和歌についての解説論文及び関連文献一覧との2部で構成されています。説話注釈は世継物語系統の無刊記整版本を底本に、翻刻、校異、校訂本文、関連文献、語釈、現代語訳、余説の項目を立てており、余説に注釈者の見解が簡潔に述べられています(注釈書では、この「簡潔に」という点が大事。延々と諸説・関連資料を挙げ、それでいったいどうなんだ、という気にさせられる注釈書は御免蒙りたい)。
世継物語は書承の説話集で、いわゆる評論部分や配列構成から窺える個性や編纂意図がよく分からず、成立年代もはっきりせず、伝本は刊本が主なのだそうで、正直に言うと、研究対象としても読書対象としてもあまり情熱をそそられない説話集です。かつて白石美鈴さんの注釈や、高木浩明さんの論考が出ていたことは覚えていますが、そんな作品に共同研究で注釈をつけ、しかもこうして整ったかたちにまとめたこと自体に、私は敬意を懐きました。1話ずつ考察してみれば、それぞれ面白い問題があるようです。
解説にも苦心が払われたようで、成立(内田澪子)、歌物語との関係(本井牧子)、歴史物語である栄花物語との関係(柴田芳成)、和歌(木下華子)、それぞれ観点の設定に工夫が見られます。歴史意識を問う森田貴之さんの論はこれから議論が必要でしょう。全体に、喪われた「宇治大納言物語」の影の大きさが、改めて印象に残りました。