歌舞伎とホームコメディと

昨晩は三谷幸喜脚本の「鎌倉殿の13人」(これはホームコメディです)を視た後、吉右衛門追悼番組「熊谷陣屋」を視聴しました。

大河ドラマの方は、ああこれはあの史料を、これはあの軍記物語をアレンジしているんだな、という興味で視ているのですが(ちなみに吾妻鏡や軍記物語の方が、ずっとドラマチックです。例えば政子は妹の吉夢を買い取り、文覚は頼朝の人相を見るふりをして扇動します)、主人公の義時を引き立てるためとはいえ、こんな頼朝で開幕まで保つのか、とか、案外女性観が旧い作家なんだな、とか思ってしまいました。時政から山木に嫁がせられそうになった政子が嵐の夜中、箱根を越えて頼朝の許へ逃げ込んだ決死の行動は、後に承久の乱勃発の時、坂東武士たちを起たせる政子の名演説のヤマになるのですが、これではどうするのかなあと余計な心配をしています。

その後吉右衛門の「熊谷陣屋」を視ながら改めて、一見荒唐無稽の「世界」のように見えるが、つくづく平家物語の感動の本質を的確に掴んだ脚色だと唸りました。敦盛を討つ前に直実が自分の息子を思う瞬間、直実の出家、宗清からもし敦盛がのちのち頼朝や義経のように復讐を企てたらどうするか、と問われた義経の答、それらは平家物語の語る、最も深い、此の世の真実でもあります。並木宗輔は舞台劇作家として辣腕だっただけでなく、古典の読者としても一流だったんだ、と思いました。

幕が閉まった後の花道で、蓮生入道となった直実が漏らす「ああ16年は夢」という感慨こそが平家物語だ、と言ったのは水原一さんでした。水原さんは講演が上手でしたが、私は石母田正が知盛に注目したのと匹敵する名言だと思っています。

三階席でいいから、また歌舞伎を舞台で観られる日に間に合いたい。