敗けた後の生き方

昨日の朝日新聞朝刊の「月刊安心新聞+」欄に、神里達博さんが「私たちはみな「平家」―負けた後どう生きるか」との見出しで書いています。神里さんの専門は科学史科学技術社会論なのだそうで、これまでの連載には共感するところが多かったのですが、今回は疑問符、いや迷惑だと感じざるを得ない不正確な文章で、座視できません。

主題は今般のウクライナ状勢から想起される、日本社会のあり方なのだと思いますが、最近放映されたアニメ「平家物語」から書き起こし、原作の古典『平家物語』に関する「解説」をほぼ1200字、コラムの半分に亘って述べているのですが、有名出版社の新書や文庫からの受け売りらしく、重大な誤りが幾つもあります。例えば、弾き語りの内容を記録したものが語り本であるとか、明石覚一が足利尊氏のいとこだとか。

また基本的に語り本は平家側の視点、読み本系は源氏側の視点が強調されている、と言うのもあまり正確ではなく、前者が平家滅亡、後者は源氏と平家の勢力交替に力点を置いて語っている、というのが正しいでしょう。

平家物語の成立に関する伝承には、当道資料を始め史料として評価しにくいものが多く、科学的に立証も反証もできない事柄が多い。それらを尤もらしく繋ぎ合わせた論が分かりやすく感動的でもあるとして刊行され、横行しているのが実状です。科学史を専門としながら、こういう資料批判なしの受け売りをしてはいけないでしょう。

ウクライナの戦争と自分の実感がうまく繋がらずにいたのに、アニメ「平家物語」を見たら、私たちは皆敗者であり、本当の難問は負けた後をどう生きるかなのだと感じることができた、と結んでいますが、貴方の役目は、そこのところをしっかり分析して書くことだったのです。少なくとも購読者は、それを貴方に期待しています。